叶わなかった方の人生

小説家になりたかった。

小学校の時、いちばん明確に描いた将来の夢。文章を書くのが好きで、これこそが私の特技、他の人より秀でた才能だと思った。小学生にしては上手に文章を書くし、この調子で行けば必ず小説家として食っていける。大丈夫。親や周りの大人とは違う、もっと華々しい人生を送ってやる。書店には私の名前が書かれた書籍が並び、一躍有名人になる。私の本名は少し変わっているから、大人になってからも友人たちは私と気づくかもしれない。そうするとペンネームの方がいいだろうか。いや、やっぱり本名で有名になりたい。

そんなことを考えていた。

もっと遡れば、アイドルになりたかった気もする。

これは最近気づいたことだ。幼少期、妹とよく架空のアイドルごっこをしてベッドの上で歌って踊っていた。しかし「アイドルになりたい」と明確に自分の言葉で語れるようになる前に、周囲の視線が私の夢をなかったことにした。私は可愛くなく、太ってもいた。美貌に恵まれなかった私は、小学校に上がる前にはアイドルになる夢をとうに忘れていた。

今でも歌を歌うのは好きだし、踊れる人に憧れがある。高校生の頃、文化祭で見たチア部のダンスで無性に泣けてしまったのは、自分の憧れを叶えた人たちを見るのが辛かったからかもしれない。自分はそちら側に行けなかったのに、どうしてあなたたちは、と。

私は今20代。まだやれることはあるかもしれない。でももうすでに手遅れになってしまった選択肢もあるかもしれない。今からアイドルになるのは、もうとっくにタイムリミットを過ぎている。

今ものすごく怖いのは、完全に「夢を叶えられなかった人生」のレールに乗ってしまっていること。まだ引き返せる？もう手遅れ？恐る恐る行先を覗いては、足踏みを続けている。そうするうちに、ひとつ、またひとつと選択肢は消え、「何もできなかった人生」だけが残る。こうはなりたくなかった、「親や周りの大人たちと同じ人生」が待っている。

やりたいことがあるなら、やってみればいい。

頭では思うのに、どうしてもそれができない。ブレーキがかかる。今までやってこなかったし、自分には向いてないかもしれないし、やってもどうせ無駄かもしれないし。要は今まで経験がないことに対する恐怖心があるのだ。そしてその恐怖心は、やらない時間が長くなればなるほど大きくなる。今すぐ始めてしまえばいいのに、できない。

「あいつに足らないのはいつだって自信だけです」

あるドラマの些細なワンフレーズ。こうやって背中を押してくれる誰かを私はずっと待っている。

日記７／３

憂鬱だ。

いや、憂鬱というほど真剣に悩んだり思考を深めたりしているわけでもない。憂鬱に沈むのも億劫で、何もかもめんどくさくて、とにかく漫然と日々をやり過ごしている。

去年の鬱状態の全てを深刻に考えていた時の方が、視野は狭くても集中力があって頭を働かせていたような気がする。今は全ての物事の表面を撫でる程度にしか考え事ができなくて、何もかもいい加減で、どうにでもなれと投げやりになっている。

あるいは去年の躁状態の時の、軽率で衝動的だったけれど自分の足と言葉で活動できていた、あの燃えたぎる様なエネルギー。それも今はない。とにかく何もかもがだるくてめんどくさくて、1日使ったコンタクトをテーブルの上に捨てたり、テレビをつけたまま昼寝をしたりする、そんなルーズな行いとその行いの積み重ねが思考に染み付いて、もう取り返しがつかないような感じ。なりたくない大人に一歩一歩着実に近づいている。

鬱でもなく躁でもなく、もしこれが人間のデフォルトの状態なんだとしたら、私は鬱状態でいた時の自分の方が好きかもしれない。自分の意見があって、それを発信するための集中力があって、それを言葉で表現しようという痛々しいエネルギーがあった。

憂鬱の原因は色々あるが、ひとつは最近無理やりつくった年下の彼氏。

世界で一番好きな人（A）は私の中には一人しかいないけど、Aは私を好きなったりはしないから、だったらその人に足りない部分を補ってくれる恋人を作ろうとしたのだった。Aへの依存状態を脱するために。それで、私に好意を寄せてくれてあっさり告白してくれたのが今の彼。以下Bとする。

私の好きな人に足りなくてBが持っているものは、ずばり私への好意とお金だ。

マッチングアプリのプロフ上、Bは年収600〜800万あることになっている。20代にしてかなり多いんじゃないだろうか。まだ3回しかデートはしていないけれど、どこにいくにしてもお金は全部出してくれる。下世話だけれど、彼と付き合っていれば私はお金の心配をしなくていいな、と思えるのがBを選んだ一番の理由だった。

だが、Bには決定的に欠けている部分がある。話がとにかく面白くないのだ。

一緒に水族館に行ったときに亀を見て、「亀の喉って、お年寄りの喉にそっくりだよね」と絶妙に面白くない話をされた。その微妙さに思わず笑ってしまって、その笑いをウケたと勘違いされたのも辛かった。

LINEはこまめにしたいタイプと言われたから毎日何かしら連絡が来るのだけど、天気の話ばかりで盛り上がらない。お前一生天気の話しかせんつもりか？と聞きたくなるが、流石に付き合って一週間でその詰め方は泣かれそうなのでできない。

私が近況を報告してもそれを深掘りしたり盛り上げたりすることもない。彼は本当に私のことを好きなんだろうか。３回デートしたからマニュアル的に告白しただけで、私に興味なんかないんだろうか。そしたら、AになくてBが持っているものはもうお金だけになる。そんなんで関係を続けられるんだろうか。

私にお金があれば、お金のために結婚に躍起になったりしなくて済むのにと思う。しかし私は働く才能より男の人に好かれる才能の方があるので、適性を考えてこの結論に至った。

去年はフェミニズムや男女格差の問題だのに目覚めて、社会一般が求めてくる女性性に自分を押し込めることに抵抗していたけれど、結局自分も女性の性役割に倣った方が楽だからと流されてしまっている。こんな大人がいるから、若い女の子の明るい未来が潰されていく。こんな大人にはなりたくなかったはずなのに。

この文章をいつか見て、こんなこともあったなと笑える日が来るんだろうか。

それとも、これはまだ序の口で、今がピークなんだろうか。

今ならまだ引き返せる？

考える力を失った私は何もわからない。

向こうから聞こえてくるTVの音声に押されて、思考はまた流されていく。

夫婦じゃなくて、人生推進ユニットを組みたい

去年の今頃はあんなに結婚のアンチだったのに、その燃え盛るような抵抗心がふっと緩み、その反動で今とてつもなく結婚がしたい。

一般的な人の結婚の動機はよく知らないけれど、いわゆる幸せな家庭を築きたいとか子供が欲しいとかそういうのじゃない。私はとにかく、人生というプロジェクトを一緒に進めてくれるユニットを築きたい。

私は今、障害年金と少ないアルバイト代で生活している。アルバイトは正社員になる道はあるけれど、正直昇給はそこまで期待できない。障害年金はおそらくこの2年がリミット、あるいはもう少し早く減額されるかもしれない。

収入は増えない。減る可能性だけがずっと私の背中を追ってくる。

自分ひとりで稼げないなら、代わりに稼いでくれる人と組むしかない。この考えは視野狭窄だろうか。昇給の可能性に期待したほうがいいだろうか。あるいは私が転職してもっと安定した収入のある職業に就けばいいのだろうか。今流行りのリスキリングだろうか。案は浮かぶものの、今はどれも現実味のない、他人事のように思える。

お金だけじゃない。自分のこの先の人生にまつわる漠然とした不安。それをどうにかしたい。結婚でどうにかなるとは限らないが、結婚で足場を固めることで変わることもあるかも知れない。20代独身という可能性と選択肢に溢れた状態から、少しずつ選択肢を削ぎ落とし方向性を定める。そうしなければ、いつまでもふらふらと宙を舞って、そのうちとんでもないところに流れ着いてしまいそうだ。前はあんなに人と同じ道は嫌だと思っていたのに、今は人と違う人生に辿り着くことがとてつもなく怖い。

代わりに稼いでくれる人と組むにあたって、自分が女性の性役割を引き受けなければならないことに抵抗がないわけではない。家に押し込められて、家事に追われ、夫主導で人生が進んでいく日々。すぐ嫌になるのは目に見えているが、主体性のない自分にはお似合いだとも思う。そうやっていつも人のいうこと聞いて生きてきたんだから。

「どうせ嫌になる」と「早くお金の不安から脱したい」、あるいは「今を逃したらもう二度と結婚できない」という焦りが渦巻いて、私は自分でもどこを目指したらいいのかわからない。

嫌にならない家庭？それなら、できれば子供を望まず、相手は聡明で話し合いができて私の意見もちゃんと聞いてくれる人。

お金の不安から脱したい？それなら、子供の希望や性格は二の次でとにかくお金を持っている人。

今を逃したら二度と結婚できない？それなら、今すぐにでも結婚したいと思っている人。

そんな全ての条件を満たした人なんて、この世にいるのだろうか。

結婚を望む男性の多くが、なぜかセットで子供を望んでいる。男性の多くは、私みたいにお金のために人生推進ユニットを組む必要がないだろうし、そうすると結果的に結婚の目的は子供になるのかもしれない。あるいは、真剣な交際を望んでいることのアピールとして「子供が欲しい」と記入しているだけかもしれない。

自分の人生を進めるためにユニットを組むのに、子供を生んでしまっては元も子もない。完全に自分の人生は置いてけぼりで、子の人生に全ベットしなければならなくなるから。だから子供は望まない。しかし、そんな考えを受け入れてくれる人が何人いるだろう。「自分のお金の不安から逃れるために結婚してください」なんて、口が裂けても言えないし。

簡単に言えば、「相手の望みは叶えたくないけど、私を養ってほしい」と思っている。なんて乱暴な望みだろう。恥を知れと自分でも思う。でもみんな口にしていないだけで、ある程度はそんなことを考えて結婚したんじゃないのか。

純粋な愛の先の結婚なんて、どれくらいの人が実現したんだろう。愛の証明としての結婚。法的根拠に基づき結ばれた絆。おとぎ話のような結婚がマジョリティ視されているから、それ以外のないものとされる。どんな結婚も、みんな愛し愛され、互いを思い合う心によって結ばれた純粋なもの。その裏に隠された、経済的困窮や支配は見て見ぬふりをする。結婚という神聖な絆にそんなもの持ち込んじゃいけないから。

ああ、いつか私の結婚観を受け入れてくれて、人生を支え合えるようなパートナーが現れてくれないかしら。

そう夢見る私が、いちばんおとぎ話に浸っているのかも知れない。

天才になりたい

天才になりたい。

何か秀でた才能を見つけて、世の中に知らしめたい。

その「秀でた才能」を私は書く力と目星をつけて、今日もこうやってキーボードを叩いている。この継続の先に、天才に続く階段が続いていると信じている。

休みの日は朝起きたらすぐにこのブログの編集ページを開く。朝ご飯は食べず、スティックのカフェラテだけをエネルギー源として、午前中は集中力が続く限りPCに向かう。書きたいことが思い浮かばなくても、とりあえず机につく。これを繰り返せば天才に近づくと信じている。

このやり方にたどり着いたきっかけには2つの本がある。

ひとつは坂口恭平さんの「継続するコツ」という本。彼は毎日午前中は執筆の時間と決めて、書きたいことを書きたいように書き続けてきた、だからこそ今があると著書の中で語っている。彼の文章の中には正直整理されていない部分もあるが、それでも自分の心のままに書き続けてきたから継続できた。そして継続したからこそ出版が絶えず、今の彼の収入になっている。

もうひとつのきっかけは、「天才たちの日課ー女性編ー」である。この本には世界中のアーティストや作家などの暮らし方、生き方が収録されている。その中でも印象に残っているのが、朝ご飯は軽めに済ませて、起き抜けから製作に取り組む人が多かった点だ。熱々のコーヒー片手に創作、あるいは昼まで何も食べずに午前中は創作、というパターンが多い。天才の典型的なルーティーンなのだと思った。

上記の2つに影響を受けて、休みの日はできるだけ何かを書くようにしている。書けなくても、本を読んだり（書くためのガソリンになる）、絵を描いたり（これも創作のひとつと数える）、何か自分で生産するもの、あるいはそれにつながる活動をするようにしている。大抵はキーボードの上に指を乗せたら、何かしら言葉が出てくるのでそれに従って文章を作っていく。手直しはひとまず考えない。まず大枠を完成させ、行き詰まったら戻る。これを繰り返す。

結局、天才は継続した末にしかいないのだと思う。だから自分の継続できるスタイルを見つけて、それを続けていくしかない。

いつか天才になりたい。

天才になって、安心したい。

人と比較して劣等感に苛まれることなく暮らしていたい。

だから今はほんの少しだけ地味な作業に没頭していよう。

この先にしか光はないと信じて。

片思いの相手が恋愛リアリティ番組に出演しそうな話

友人（男）がバチェロレッテJAPANの一次審査に通ったという。

バチェロレッテJAPANとは、1人の女性を巡って十数名の男性が争う（？）恋愛リアリティ番組である。（私も友人の話を聞いて昨日初めてエピソード1を見ただけなので、詳しくは知らないが）

そしてその審査に通ったという友人は、私の片思いの相手である。

本当は「片思いの相手」という形容は、私たちにはあまりフィットしない。私と彼は3年前に出会い、そこから毎年お互いの誕生日を祝い、バレンタインデー・ホワイトデーには贈り物をし合い、毎日寝る前の電話を欠かさない。側から見ればほとんど付き合っているような関係だ。

しかし彼から私のことを好きだという言葉を聞いたことはないので、今のところ私たちは友人でしかなく、彼は私にとって片思いの相手である。

その彼が、恋愛リアリティ番組に出るかもしれない。

「面白そう！」と思う自分と「絶対に嫌」と思う自分がいる。

贔屓目もあるが、彼は画面映えする顔だと思う。育ちがいいので立ち居振る舞いも優雅だし、話も面白い。複数の男性に混じったとき、彼がどんなふうに見えるのか。バチェロレッテの心を射止めんとするとき、彼はどんな行動に出るのか。番組上で輝く彼の姿に興味はある。

でもそれ以上に、それを見せつけられるのが辛いと思う。

ただの友人、片思いの相手と言っても、ほとんど彼と私は生涯を共にするパートナーだと勝手に思っていた。うつで辛い時も、何も話題がない時も、毎日電話をして積み重ねてきた時間は、誰かに壊されることはないという絶対的な自信があった。

「お互いが誰かを好きになっても干渉しないでいようね、付き合ってないんだから」と口では言っていたものの、いざその可能性が出てくると辛い。自分の思い上がりを後悔する。付き合わなくても、そばにいてくれるならそれでいい、彼氏彼女というただの肩書きに何の意味があるのか、などと思っていた。こういう事態を防ぐためなんだ。私は彼の彼女ではないので、番組に出たいという彼を止めることはできない。

加えて、更に心配なこともある。私がそれを見て傷つくことより、彼が傷ついてしまわないかが。彼はプライドが高い。このバチェロレッテに本気で参加していないとしても、自分につけられるキャッチコピーや視聴者からのコメントに傷つく可能性もあるし、演出のため番組側の悪意ある編集は避けられないと思う。それらに彼が耐えられるか。

彼が楽しいと思って参加できるならいい。撮影のための３ヶ月間、会えなくても、毎日の電話も無くなってもいい。でも傷つかないで帰ってきてほしい。

番組上で輝く彼を見たい気持ちと、傷つかないで終わってほしい気持ち、どこにも行かないでほしい気持ち。いろんな気持ちが渦を巻いて、収拾がつかない。

楽しそうな彼を横目に、次の二次審査で落ちることをこっそりと願う。

自分は可愛くないと言い聞かせる

接客業に携わるようになってから、可愛いと言われることが増えた。いや、新卒の時の接客業ではほとんど言われなかったから、もしかしたら最近になって可愛くなってきたのかもしれない。お客様からだけでなく、友人の友人からとか、唐突に妹からとか、仕事以外の場面でも言われるから、やっぱり顔や、あるいは時代が変わったのかもしれない。

可愛いと言われる時、私はどうしようもない居心地の悪さを感じる。可愛いと言われて育ってこなかったからだ。先ほど「唐突に妹から」言われるようになったと書いたが、私の人生の中では私より妹が可愛い扱いされる機会の方が多かった。私はどちらかというと地味で真面目な役回りで、可愛い担当は妹だった。だからこそ、妹も久々に見た姉の顔に驚いた末の「可愛い」発言だったのかもしれない。

可愛い扱いに慣れていないので、可愛いと言われた時にいい感じに返答することができない。謙りすぎず、調子に乗りすぎず、たとえ相手が社交辞令だったとしても成立するくらいのちょうどいいリアクションを私は持ち合わせていない。結果、ヘラヘラしすぎて微妙な空気になってしまう。

考えすぎず「ありがとうございます」くらいでいいのかもしれない。しかしそれでは、私の中で「可愛い」を受け入れたことになる。それは私の本心に反するので居心地が悪い。私は可愛くない。世の中に私より可愛い人なんてごまんといる。私は偏差値で言うと45くらいだ。これでは「可愛い」を素直に受け取ることができない。

とまあ、モチャモチャ1人で文句を言い出すとキリがない。私が自分を可愛いと思っていないことは十分に理解していただけたと思うので、ここからはなぜ最近になって可愛いと言われるようになったのか考えてみたい。

私としては顔に大きな変化があったとは思わない。化粧の仕方もそんなに変えていないし、もちろん整形もしていない。ひとつ言えるのは、「顔立ち」が変わったというより、「顔つき」が変わった可能性だ。

私の持論では、責任のある立場にいる人ほど、その責任の重さが顔に表れる。役職が重いほど、顔つきは険しく、厳しく、実年齢は若くとも大人びた印象の顔になる。逆にアルバイトやパートなど責任の軽い働き方をしていると、その軽さが顔に出て、どちらかと言うと幼く見える。私は現在後者にいる。

新卒の頃は、正社員で、一応一店舗の責任者でもあったから、その責任感が顔に出ていたかもしれない。それが一度目の転職で小さい会社の一般社員となり、更にその後一度無職となり、現在は週4勤務のアルバイトである。持論の通りであれば、どんどん責任が軽くなるにつれ、顔つきが若返っている可能性がある。

ただ、この持論が本当で、若返ったことによって可愛く見えるのなら、「可愛い」という言葉は単なる褒め言葉として受け取っていいものではないかもしれない。大人として相応の責任を負わず、いつもふらふら生きているのがバレてますよという警告ともとれる。だとすると、アラサーの女が可愛いと言われて手放しで喜んでいい状況ではない。（こういう考えも、私が「可愛い」を素直に喜べない一因となっている）

また、顔つきが変わった説以外にも、もうひとつ考えられるのが時代の変化である。今、特に芸能界は空前の子供顔ブームである。今流行りの女優、モデル、アイドルなどを見ると、大人顔はかなり少なく、30代、40代でも子供顔の女優の方が多い。そして私も、分類的には子供顔に属する。流行りの顔に近いから可愛いと言われやすい。ただそれだけだ。

子供顔、大人顔と言うのは、単に若い／老けているということではなく、顔のパーツの大きさや配置の問題である。それが今、子供っぽい特徴の顔が主流になっているという、それだけ。今後子供顔のブームが終わり大人顔が主流になると、途端に可愛いと言われなくなると予想できる。今、自分が可愛いと思えない人も、それは今の流行りの顔ではないというだけで、これから時代が変われば自分の時代がくると思っていい。時代の可愛いなんて、簡単に移り変わる。

顔つきと、時代にマッチしただけというそれだけの理由で可愛いと言われている。今後役職が変われば顔つきが変わってくるだろうし、大人顔の時代が来れば幼いと言って切り捨てられる。絶対的な美があるわけではない、私の顔。

だから、調子に乗るなよ。調子に乗るなよ。私は可愛くない。今、たまたまそういうタイミングだっただけ。可愛くない。

繰り返し言い聞かせる。簡単に舞い上がりかける私の心に蓋をして重石をして、絶対に浮かび上がらないようにする。浮いた心は簡単に傷つくから。

「自分は可愛くない」

これは私自身の呪いであり、自分を守る防衛策でもあるのだ。

鬱は怖い

鬱は怖い。

体はまだ二十代なのに、まだそれだけの体力があるのに、その使い所がわからない。

まだ二十代並みの知識と経験しかないのに、思考力が低下するから、知識・経験のなさを思考力で挽回できない。日常生活の全てにおいて正解を導き出せない。

有り余った体力が空回りして、小さなミスを積み重ねて、もう取り返しのつかないところまで来てしまったような気がする。

まるで見た目は子供、頭脳は老人のチグハグな体を手にしてしまったようだ。大人というにはまだ未熟すぎるのに、大人というには劣化しすぎている。私を初めてみた人はきっと見た目よりソフトウェアが劣っていることに驚く。なんでこんなにとろいんだと。

街を歩いている老人たちが自分の中にもいるのだと思うとゾッとする。些細なことで怒鳴る老人、一度で話を理解できない老人、そもそも話を聞かない老人、勘違い、徘徊。彼らが周囲から疎まれている様子を見るたび、明日は我が身だと思う。私が彼らを軽蔑するたび、その矢は自分自身にも突き刺さる。

「まだ若いんだから」

周りに言われるこの言葉が私を苦しめる。年齢的には若くても、頭は認知症の老人並みなのに。誰も気づかない。だってちゃんと喋れてるじゃない、仕事できてるじゃない、生活できてるじゃない。そのどれも、私が脂汗をかきながらなんとか体裁を取り繕っていることを、誰も知らない。

いつも何かに焦っている。

これでいいんだっけ、これでいいんだっけ、これでいいんだっけ。

考えたところで私の頭の中で正解が生成されることはない。得体の知れない何かに追われて、得体の知れない何かを探している。

いっそまともに喋れなくなってみたらいいんだろうか。まともなふりをやめてみればいいんだろうか。そうしたら、誰かが手を差し伸べてくれるだろうか。

そう考えたところで、思考は止まる。どうせ、誰も助けてくれないから。助けてくれないからうつ病になったのだから。

老人や障がい者を疎ましく扱う社会は、回り回って自分達の首を絞める。この社会は「健康で五体満足な若年男性」を基準にして回っている。病人が、障がい者が、高齢者が、女性が、枠にはまらない全ての者が簡単に切り捨てられる。その冷たい刃は「健康で五体満足な20代男性」の喉元にまで突きつけられている。一歩足を踏み外せば容赦なく突き刺さる刃。それは焦りを生み、精神的な負荷を与え、個人及び社会全体を歪ませる。

こんな社会で障がいを抱えて長生きして、何が楽しいんだろう。

「死にたい」といえば簡単にうつ病認定されてしまうが、むしろこんな社会で「生きたい」と願う方が難しんじゃないか。

本当は鬱が怖いんじゃない。鬱であることを許容できない、この日本社会が怖いのだ。