無題

目が覚める。

カーテンを開けると窓の外はまだほんのり暗くて、自分が早く起きすぎたことに気づく。しかしもう完全に覚醒し切った頭は、布団に戻ることを良しとしない。しょうがないので、いつものように筋トレをして、いつものようにタロットを引いて、いつものように割るタイプのコーヒーを入れる。いつも通りの朝。

昨日有名な人が亡くなった。

私個人は彼の所属する団体の思想には共感できないのだけど、こんな形で世界から消えることを望んだわけではなかった。テレビ局は急遽特番を組み、昨日は一晩中このニュースで持ちきりだった。今テレビをつけても同じニュースが繰り返されるだけだったので、数分眺めてすぐにテレビの電源を切る。

「〇〇年××暗殺事件」なんて、教科書に載っていても丸暗記して終わらせていただけのことが、今、自分のいる時代、場所で起きている。今、目の前で世界が変わろうとしている。私はなす術もなく、ただ画面から流れる映像を眺めることしかできない。

窓を開けると思いの外涼しい風が部屋に入ってくる。暗いニュースで澱んだ6畳一間が少しずつ浄化されていく。

冷たいコーヒーを飲みながら、私は最近買った本を開く。哲学対話がテーマのこの本は、私を現実世界から切り離し思考の海へ連れて行っていくれる。心地よい没入感。

昨日の夜腕に塗ったボディクリームの匂いがする。ヴァーベナの爽やかな匂い。

自分の「心地よい」をできるだけかき集めて、少しずつ私は私を取り戻していく。

世界中で不穏な号外が発行され続ける毎日の中で、より多くの人がいつも通りの無題な日々を迎えられますように。

そしてそれができるだけ長く続きますように。

私たち個人には何も力はないかもしれないけれど、声を投票という形に変えることはできる。それが集まれば国だって動かせると信じたい。私たちのいつも通りを守るにはそうするしか手段はないと思う。

明日は日本の未来を変える大きな転換点。